RAKUZEN開発秘話

商品開発のきっかけ 菅野さん

菅野昇さんー商品開発のきっかけとなった人
 
RAKUZENの商品は製品開発や生産工程のどこかに障がいを持つ仲間が参加しているのが特徴です。障がいを持つ人たちと一緒にものづくりをする、そのきっかけとなったのが手に障がいを持つ菅野昇さんでした。
 
 

 
 
このコーヒーカップ、僕には持ちづらいんだよね
合同会社楽膳の運営母体「NPO法人シャローム」は障がいのある人とない人が共生する社会をめざし、福島県で40年以上に渡り活動してきました。2003年、シャロームが運営するパン屋「まちなか夢工房」で当時ボランティアをしていた菅野さんは、コーヒーを飲みながら行われるミーティングでいつも感じていることを何気なく口にしました。
「このコーヒーカップ、僕には持ちづらいんだよね」
 
2003年、ユニバーサルデザインワークショップがスタート
菅野さんは物を持つと手が震えるため、普通のコーヒーカップに持ちにくさを感じていたのです。菅野さんの一言をきっかけにシャロームでユニバーサルデザインのワークショップが始まりました。障がいの有無に関係なくたくさんの人たちが参加し、一般的な食器の使いにくい点や改善策などが話し合われました。持ちやすいコーヒーカップ等の試作も行われました。ワークショップを通して障がいのある人とない人が一緒になってみんなに優しいデザインを考える、RAKUZENのコンセプトの土台が形作られました。
 
楽膳椀の原型と製品開発の事業化
2004年、当社代表の大竹が「楽膳椀」の原型となる持ちやすい器のデザインを携えてシャロームに就職しました。前年のワークショップからシャローム内でものづくりへの機運が高まっていたことで「ユニバーサルデザイン製品開発事業」とし商品化に向けて動き出し、2006年にRAKUZEN第一弾商品として楽膳椀が発売されました。
 
食べるのが楽になると食事が楽しくなる
「底部のくぼみで持ち方が工夫できるので、安定感があって使いやすいです。食べる時のストレスがなくなって楽になりました」と楽膳椀を愛用してくれている菅野さんが語ってくださいました。
菅野さんたち障がい当事者の方々が開発時のアイディア出しや試作品の使いやすさをチェックしてくれることで、みんなに優しいRAKUZENのデザインが生み出されています。
 
 

 
 
 
 

  


木地職人 長谷川さん

長谷川利之さんー困難なデザインを形にしてくれる木地職人
 
漆器は木材をろくろで削り出して作る「木地」(無塗装の木の器)に漆を塗って作られます。楽膳椀やらく皿などRAKUZENの商品はどれも手間のかかる形のため、木地作りを手がけてくれる職人さんはほとんどいません。長谷川さんは木地作り工程がある全商品の試作と製造を担ってくれている木地職人さん。RAKUZENの要ともいえる職人さんです。
 
 

 
 
素材に漆器を選んだワケ
2004年、楽膳椀のデザインを実現するために福島県の伝統工芸「会津漆器」の職人さんを訪ねました。地元福島の産業を盛り上げたい思いと、底に指をかけて持つ楽膳椀の素材には熱伝導の緩やかな「木」が最適だったからです。当時はユニバーサルデザインというと介護用品と誤解されることが多く、安価な樹脂等でなく匠の手仕事による漆器を素材とすることで介護用品のイメージを払拭したい思いもありました。
 
普通のお椀の3倍時間がかかる木地作り
楽膳椀は底にくぼみのある独特の形をしています。お椀の底部2箇所にカットを入れ、磨く作業は全て手作業。とても手間がかかるため一般的なお椀の3倍も時間がかかり、量産もできません。長谷川さんにとってくぼみを付ける作業は自身の専門外で、しかもNPOが漆器を開発して売りたいなんて雲を掴むような話だったことから最初は断るつもりだったそうです。
 
師匠であるお父さんのために
苦労の伴う木地作り引き受けてくれた背景には、木地職人の師匠でもあるお父さんの存在がありました。楽膳椀開発の相談をする数年前に、長谷川さんのお父さんが病気の後遺症で左手が不自由になられていたのです。食事で不自由な思いをしているお父さんのために持ちやすいお椀を作ろうと楽膳椀開発への協力を承諾してくれたのでした。
 
 

 
 

厳しい父から認められた仕事
長谷川さんのお父さんは普段は優しいのに、仕事となると大変厳しい師匠だったそうです。これまでどんなにがんばっても滅多に褒めてくれなかったお父さんでしたが、楽膳椀が商品化した時には「おおやったな」と褒めてくれたそうです。諦めずに何度も試作を繰り返し、自分が作れない物をついに息子が作ったことが嬉しかったのかもしれません。長谷川さんが挽いた楽膳椀を、お父さんはその後ずっと愛用してくれたそうです。
「喜ばれる物を作れることが物を作る人間の喜び」とお父さんの思い出を語りながら長谷川さんが話してくれました。

 
 
 
 

  


開発に協力 阿部さん

阿部清美さんー開発に協力、10年以上愛用

NPO法人シャロームが2003年に実施したユニバーサルデザインワークショップ、その後の楽膳椀の試作品検討会と商品開発に参加してくれた阿部清美さん。もう10年以上も楽膳椀を愛用してくれています。楽膳椀を使っての感想や開発に関わっての思いを阿部さんにインタビューしました。
 
手に障がいがあるけど持ちやすいんです
福島県福島市で両親と旅館「山根荘」を経営する阿部清美さんは障がいを持って生まれてきました。仮死状態で生まれたため脳に酸素がいかず心臓と手に障がいが残っていまったのです。手に麻痺があり力が入らず、緊張すると手が震えてしまうそうです。
 
 

 
 
そんな阿部さんは楽膳椀を10年以上も愛用してくれています。その理由を伺うと「すっと持てる」「木の自然な感じ」。力が弱くても手に馴染んで持てるからお味噌汁を食べるのに愛用しているそうです。
“赤と黒のペアを持っていたんだけど、2011年の震災で被災して避難所代わりにうちに泊まっていたおばあちゃんにひとつあげたんです。”とうれしそうに話してくれました。
 
 
 
 
 

自分の居場所ができた
商品開発に関わってみての感想を伺うと「喜びがありました」。障がいがあることで昔はつらい経験も多くされたという阿部さん。自分の意見を聞いてもらえる場所があることがうれしかったのだそう。阿部さんのお話から、障がい者の意見が社会に発信される機会はまだまだ少ないのだなと改めて感じました。